今回は、今や毎月恒例となっている知り合い同士の読書会の話をしようと思います。この読書会は、僕が東京で学生生活を送っていた時に声を掛けられて参加するようになったもので、このように参加者が知り合いに声を掛けることで形作られていった、身内の小さな集まりです。“読書会”という以外に名前もありません。ですから、こうしてブログに書く時には説明に困ってしまうのですが、だからといってどうしようもないので、“読書会”ということで話を進めようと思います。

 上述の通り、読書会は元々東京で、カフェの貸会議室などを利用しながら行われていたものですが、コロナ禍になってからZoomを使ってオンラインで開催されるようになりました(就職を機に関西に里帰りしていた僕は、このタイミングで会に復帰)。現在は月に1回のペースで活動しています。

 6月の読書会は、去る20日(日)に開催されました。参加者は5名。内容は、参加者がそれぞれ本を紹介するというものでした。一般に読書会では「一人一冊」のように紹介できる本の冊数が決められていることが多いのですが、この読書会では、1人当たりの持ち時間以内であれば何冊紹介しても良いということになっています。最初からそういう風に決めていたわけではなく、実際に読書会を重ねるうちに、一冊の本をじっくり紹介する人もいれば、色んな本をテンポ良く紹介する人もいるといった具合に、紹介のスタイルも人によって違うことがわかったので、自然に形が出来上がったという印象があります。この 良い意味での“いい加減さ”は、身内の会ならではのものなのだろうと思います。

 そんなわけで、参加者は5名でしたが、以下では8冊の本を紹介したいと思います。それでは、紹介の方に移りましょう。


◆1.『9割の社会問題はビジネスで解決できる』



 読書会の代表から紹介された本です。著者は田口一成さんという起業家で、貧困・差別・環境問題といった社会問題をビジネスによって解決するためのプラットフォームになる企業を経営している方です。社会が発展を目指して効率化を推し進めてきた結果、弱者が生み出され排除されてきた。そのような問題を、ビジネスを使って解決しよう。——この本で述べられていることを大まかにまとめるとこのようになります。ビジネスそのものと社会的課題の解決との結びつきがまだまだ弱い現在においては、示唆的な内容を含む本であることが窺えます。


◆2.『第一阿房列車』

第一阿房列車 (新潮文庫)
内田 百けん
新潮社
2003-04-24


 ビジネス書から小説・雑学本まで広く読んでいる男性メンバーから紹介された本です。日本の鉄道文学の先駆とも言われる、内田百閒のエッセイになります。もっとも、列車に乗っている時の話は2割程度で、出先で酒を飲んでいる話ばかりが出てくるのだといいます。

 そんな構成からも窺える通り、内田百閒はかなり型破りかつワガママな人で、作中でも、突然思い立ったからという理由で知り合いを呼び出して列車の旅に出る、二等車なんて中途半端な客車には乗りたくないから一等が取れないなら三等にしろと言い出すなど、無茶苦茶ぶりを発揮しています。もっとも、そういうワガママぶりが赤裸々に綴られているからこそ、読み手は面白がってページをめくるのでしょう。

 紹介者の男性からは、文章がシンプルでわかりやすいという点も、本書のオススメポイントとして挙がっていました。


◆3.『ふだん使いの言語学』



 『第一阿房列車』を紹介したのと同じ男性メンバーから紹介された本です。日本語の文章はしばしば沢山の意味に取れてしまうということを、ありがちな事例を豊富に挙げながら説明し、誤解を避けるためにはどうすればいいかをロジカルに解説していく1冊です。

 例えば、「かっこいい俺の車」。「かっこいい」のは「俺」でしょうか「車」でしょうか。それから、「歯医者やめました」。これは「歯医者の予約をキャンセルした」という意味で使われているのですが、文章をパッと見ただけだと「廃業した」と言っているような印象を受けます。

 本書ではこのように、誤解を招きやすい文章の実例が沢山紹介され、それぞれどういう風に言い換えればよいのかということが検討されています。「『阿房列車』は読んでも何の役にも立たないけれど、こっちの方はメールを打つ時なんかに役立つんじゃないかなと思います」紹介者の男性は冗談っぽく、そう話していました。


◆4.『うっかり鉄道』

うっかり鉄道 (幻冬舎文庫)
能町みね子
幻冬舎
2018-04-10


 ワタクシ・ひじきが紹介した本です。実は全く紹介する予定じゃなかったのですが、『第一阿房列車』に触発されて急遽話してしまいました。僕は以前『阿房列車』を読んだ時、出発前に駅の酒場で飲んでいる話ばかりで車窓や沿線の風景が描かれないことに不満を覚えて、途中で放り出してしまいました。そんな僕が「ちゃんと道中記になってるし、これは面白い!」と思った鉄道エッセイが、この『うっかり鉄道』だったのです。

 関東一円の路線図を何も見ずに描けるほどの鉄オタである著者・能町ミネ子さんと、全然鉄道に詳しくない編集者・エノケンさんの、乗り鉄あり、切符鉄ありの珍道中を収めた1冊。毒にも薬にもならない本ですが、気軽に読めるので、疲れた時にちょっと手に取るのにおススメです。


◆5.『暇と退屈の倫理学』

暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)
國分 功一郎
太田出版
2015-03-07


 もう1冊、ワタクシ・ひじきが紹介した本です(今回初めて2冊紹介してしまいました)。元々紹介する予定だったのはこちらの方です。

 人間は退屈する生き物である。ではその退屈とどのように向き合ったらよいのだろうか。本書はこのような問いを掲げ、歴史学や哲学の文献を紐解きながら、退屈とその克服の道を探究する哲学書です。やや難解な部分もありますが、全体的にわかりやすく親しみやすい文章で書かれていて、専門的な知識がなくても読める本になっています。本題である「退屈とは何か?」「人は退屈をどのように捉えてきたか?」「退屈とどのように向き合えばいいのか?」はもちろんのこと、思考の途中で参照される様々な議論も興味深いものが多いので、一度読み始めると夢中になれると思います。退屈を味わったことのある全ての人にオススメしたい一冊です。

(例によって読書会には思考が未整理の状態で臨んでしまいました。この本、そして退屈については一度きちんと考えたいところです……)


◆6.『よみがえる天才3 モーツァルト』



 ご存知、師匠から紹介された本です。師匠の中で最近モーツァルト・ブームが来ているということで、ちくまプリマ―新書の「よみがえる天才」シリーズで出ているモーツァルトの評伝が紹介されました。

 この本のポイントは、神童と言われるモーツァルトの人間性に迫っている点です。早熟で10歳になる前から天才ともてはやされていたモーツァルトですが、実はその後台頭するライバルたちの中に埋もれ、就職にも失敗するなど、辛酸を嘗めることもあったようです。そのような人生の揺さぶりを経たためか、モーツァルトには、人前では陽気に振る舞っているものの、一人になるととても哀しい目をしているといった二面性があったようです。そして、モーツァルトの楽曲も、その二面性を反映するかのように、楽しい曲調の中に哀しみが滲んだり、短調から長調へ急激に転換したりといった要素を含んでいるのだといいます。

 モーツァルトというと、天才と奇人は紙一重を地で行くような人という印象が強かったのですが、話を聞いていると、そうではないような気がしてきました。個人的に共感できそうな話もあり、本についてもとても気になりました。


◆7.『図書館の大魔術師』



 これまでの読書会では経済系のノンフィクションを多く紹介していた男性メンバーから紹介された作品です。「今回は趣向を変えてマンガを」ということでした。元々はマンガを読むことの方が多いそうです(その蔵書数、なんと2、3千冊に及ぶのだとか……)。

 『図書館の大魔術師』は、ゴリゴリの異世界ファンタジーです。ざっくり言うと、虐げられている主人公が世界を変えようとするという、王道展開の作品のようです。ただ、伏線がかなり多く、既刊の5巻を読み進めても話の終着点が見えないそうで、これは本作の特徴として挙げられるという話でした。

 紹介の中では、「個人的に絵が好み」という話もありました。小説や新書と違って、マンガの場合絵柄もポイントになるというのは、毎度のことながら大事な観点ですね。


◆8.『チェンソーマン』



 『図書館の大魔術師』を紹介したのと同じメンバーから紹介された作品です。紹介者がいま一番推したいと思っている(ただし読む人を選ぶ)作品とのことです。

 こちらも、主人公は社会の底辺に置かれている人物です。臓器や身体の一部の売買にまで手を出すも借金地獄から抜け出せない主人公は、最も簡単に高額報酬を得ることができる悪魔狩りを続けるさ中、チェンソーマンになり、借金の取立屋を一掃。それをきっかけにして社会に牙を剥くようになります。

 アクション系が好みの人には強くオススメできる作品とのことですが、グロシーンが多いため、そういうのが苦手は人にはオススメできない(誰にでも推せるのは『図書館の大魔術師』のほう)という話でした。1話がウェブで見れるそうなので、とりあえず読んでみて続きを読むかどうするか考えてみるとよいとのことです。

     ◇

 というわけで、以上、6月20日の読書会で登場した8冊の本を紹介しました。ちょっと駆け足での紹介になりましたが、いかがだったでしょうか。

 今回は1人当たりの持ち時間が20分とかなり長かったため、全体的にゆったりと進んでいく会になりました。この本文はかなりの(我ながら異例の)コンパクトさでまとめていますが、実際の読書会では、例えば『ふだん使いの言語学』に紹介されている“誤解されやすい日本語”の例がもっと沢山挙げられたり、『暇と退屈の倫理学』をきっかけに豊かな生き方や労働観の話が展開したりしていて、とても充実した時間が過ごせました。

 それでは、今回はここまでといたしましょう。

(6月23日)