随分日が経ってしまいましたが、7月31日(土)に開催された彩なす家読書会のことを書いていこうと思います。

 「彩なす家読書会」は、かねて関の東西を跨いで開催されていた「彩ふ読書会」の姉妹コミュニティとして誕生したオンライン形式の読書会です。彩ふ読書会と同様に、①参加者がそれぞれ好きな本を紹介する「推し本披露会」と、②事前に課題本を読んできて感想などを話し合う「課題本読書会」という、2パターンの会が行われています。7月31日は2回目となる「推し本披露会」の日でした。

 読書会は朝の10時半から12時まで、Zoomを使って開催されました。定刻に参加者がミーティングルームに集まると、主催者であるのーさんが挨拶をして、読書会が始まります。続いて、会の流れや注意事項、さらに本を紹介する時に使う画面共有機能の使い方についての説明があります。

 説明が終わると、参加者はZoomのブレイクアウトルームという機能を使って少人数のグループに分かれます。ここからが読書会のメインの部分になります。グループの中で、1人1冊ずつ本の紹介を行うのです。必死になって本のプレゼンをするというよりは、感想や印象に残ったことなどを好きなように話していくというイメージです。他の参加者から、本の内容や作者のことなどについて質問が出てくることも珍しくありません。質問をきっかけに本の話が広がったり、深まったり、時には思いがけない話題に飛躍したり。その時の展開に身を任せながら、会は進んでいきます。

 その後の流れを話しておくと、12時が近付いてきたところで、参加者は再び全体のミーティングルームに戻ります。そして、今後の読書会の活動予定を聞いたところで解散します。ミーティングルームはその後も暫く開放されているので、時間の空いている参加者はそのまま雑談を続けることもできるという具合です(この日も小一時間ほど雑談が続きました)。

 さてここからは、メインである小グループでの本紹介の様子についてお話しすることにしましょう。この日は全部で9人の参加者がおり、本の紹介は2つのグループに分かれて行われました。僕はBグループで、同じグループには僕を含めて4人が参加していました。どなたも彩ふ読書会の頃からの参加者ですが、お一人はオンライン読書会に参加するのは初めてで、本を人に紹介するのも久しぶりだったので「新鮮です」と話していました。

 小グループは普段5~6人で構成されているので、4人というのは少なく感じましたが、その分時間を贅沢に使った本紹介となり、非常に濃密な話し合いが展開しました。以下、紹介された本と共に、詳しくみていきましょう。


◆1.『ゴルゴ13』より「すべて人民のもの」(さいとう・たかを)
 最初に紹介されたのは、ギネス級の超長編漫画『ゴルゴ13』の中から、作者さいとう・たかをさん自ら厳選した13のエピソードをまとめた単行本です。紹介してくださったのは東京の彩ふ読書会のメンバーでした。収録された13のエピソードの中でも、特に「すべて人民のもの」という話がお気に入りということで、この話の紹介を中心に読書会は進んでいきました。

 「すべて人民のもの」は、ヒューラー商会というスイスのプライベートバンクに、ソ連の軍人ニコライが訪ねてくるところから始まります。ニコライは「自分はロシア革命によって倒れたロマノフ朝の皇帝一家の末裔である」と名乗り、金庫に預けていたものを受け取りたいと願い出ます。受け取りに必要な割符とパスワードを用意していたことから、ニコライ=金庫の中身の正当な相続人と認められました。

 これに慌てたのが、当時ソ連と冷戦を展開していたアメリカです。というのも、皇帝一家の預けたものは時価にしてアメリカ国家予算に匹敵する価値があったからです。それだけの大金がソ連に渡ることを恐れたアメリカは、これを阻止する動きに出ます。目を付けたのは、皇帝一家の預けものの相続人は2人いるという事実です。その人物が西側諸国の人間であることを願いながら、アメリカはニコライとは別の“もう1人の相続人”探しを始めます。

 そこへゴルゴが絡むわけですが……ここから先はネタバレできないということで、残念ながらこれ以上詳しい話を聞くことはできませんでした。ゴルゴは西側なのか、東側なのか、ストーリーの中でどういう役割を演じるのか、気になることが多すぎてもはやモヤモヤします。

 裏を返せば、それだけ興味が湧いたということです。滅んだ王族が残した莫大な財産の行方を、歴史や政治の動きをふんだんに盛り込みながら描き出す、硬派でハードボイルドなサスペンスの予感。さらに、タイトルの伏線回収も見事で、読後感も爽やかとのこと。本当に手に取ってみたくなる本紹介でした。

 他の参加者との話し合いの中では、『ゴルゴ13』という作品全般に言える作り込みの丁寧さや、それぞれのストーリーの背景に関するリサーチの徹底ぶりが話題になりました。


◆2.『この世にたやすい仕事はない』(津村記久子)

この世にたやすい仕事はない (新潮文庫)
記久子, 津村
新潮社
2018-11-28


 続いて紹介されたのは、タイトルから“お仕事小説”感が滲み出ているこちらの本です。紹介してくださったのは、京都の彩ふ読書会のメンバーでした。最近転職活動をしていたそうで、「職を転々としていく主人公の姿が自分と重なって、凄く共感できました」という言葉が、紹介のはじめにありました。

 今の話にもある通り、『この世にたやすい仕事はない』は、主人公「私」が自分に合った仕事を求めて職を転々としていく物語です。前職で燃え尽き症候群になった「私」は、「たやすい仕事」を求めて職探しを始めます。そして幾つかの職業を経験するわけですが、実際にやってみると、「たやすい」と思われた仕事にもそれぞれに困難があることが見えてくる、というわけです。そう聞くとズーンとくる話なのかなあと思えますが、仕事にまつわるエピソードはどれもユーモラスに書かれており、読みやすい作品に仕上がっているとのことでした。

 「たやすい仕事」って人によって感じ方が違うと思うのだけど、この本の中ではどんな仕事が登場するのだろう? そんな疑問を抱いた僕は、早速質問してみました。この本の中に登場する仕事は次の5つ。①テレビを通じてある人を見張る仕事、②バスのアナウンスの原稿を作る仕事、③おかきの製品表示を作る仕事、④路地を訪ね歩いてポスターを貼る仕事、⑤森の小屋の中での仕事です。どうやら、人前に出ることなく、決められた業務に一人で取り組む仕事が、ここでいう「たやすい仕事」のようです。

 実際、「私」が探しているのも、地味だけどコツコツとした、いわゆる裏方作業のような仕事のようです。しかし、裏には裏の取引関係や人間関係がありますし、それぞれの仕事や職場に特有のルールや文化もあります。ここがこの小説のミソだと、紹介者は言います。実際の仕事においては、ウラもオモテもない。そんなリアルな部分をちゃんと書いている作品だからこそ、読んでいて共感できるというわけです。また、仕事が変わればそれまでの常識や価値観が通用しなくなるという点も、非常にリアルに書かれているということでした。お仕事探訪という意味でも、仕事におけるあるある確認という意味でも、読み応えのある作品なんだなあと感じました。


◆3.『てんやわんや』(獅子文六)

てんやわんや (ちくま文庫)
獅子 文六
筑摩書房
2014-04-09


 続いて登場したのは、タイトルからしてアタフタしているこちらの小説です。紹介したのはワタクシ・ひじきでございます。

 獅子文六さんの小説は過去に2作読んだことがあるのですが(『コーヒーと恋愛』『七時間半』)、個人的には、現実の世界を舞台にしたドタバタ劇をユーモラスに描くのが上手な作家という印象があります。今回紹介した『てんやわんや』も、そのイメージ通りの作品でした。

 舞台は戦後間もない日本。東京の出版社に勤めていた主人公・犬丸順吉は、終戦後の荒廃した東京を怖いと感じ、郷里の北海道に引き揚げるべく、辞職を申し出に社長のもとを訪れます。しかし、そこで社長から「戦時中役所に近い部署で働いていた君は戦犯だから、里に足をつけるわけにはいかないぞ」と告げられます。これにまた恐れをなした順吉は、言われるがままに、社長の故郷である愛媛県の海岸部の集落に向かい、近世から続く名士の家に居候をすることになります。

 それまでの人間関係のしがらみを遠く離れ、日々嘘のように豪華な食事を堪能できる愛媛の地を、順吉は桃源郷と感じます。しかし、そこはやはり社長の息のかかった場所であり、戦後初の衆院選が近付くや、順吉は地元の人たちと、更には社長の派閥の人たちとが絡み合った政治的駆け引きの中に巻き込まれていくことになります。さらにその後、町内の人間模様、更には戦後の改革の影響で没落しかかっている居候先の豪族の動静などに翻弄されていくのです。

 次々にややこしい出来事が降りかかってくる中、順吉はどう暮らし、そして最終的にどうなるのか。最後まで展開が読めず、目が離せない作品でした。ラストは「あ、え!?」となってしまう、ある意味呆気ないものなのですが、実際の出来事に沿った展開なので、なんとも言えない説得力がありました。

 獅子文六さんの他の作品名も出しながら話をしたためか、話し合いの中では、獅子文六作品を5、6冊読んだことがあるという方から感想を寄せられたり、普段は主にSF作品を読んでいるという方から「この人の本を読むならどの作品からがいいですか?」という質問を寄せられたりしました。


◆4.『DEATH STRANDING』(小島秀夫・野島一人)
 最後に紹介されたのは、同名のゲームをノベライズしたこちらの本です。紹介してくださったのは、以前京都の読書会でサポーターをされていたメンバーでした。

 作品の舞台は近未来のアメリカ。死んだ人間を適切に処理しないと、死人が“BT”という存在になって徘徊する。そして、BTと人間が出会うと融合して爆発を起こしてしまう。この「デス・ストランディング」という現象により、人々はシェルターに隠れて暮らしており、互いに分断されています。

 そんな世界の中で、シェルターの間を行き来して物資を運ぶ“配達人”の1人サム・ブリッジズが、河野作品の主人公です。サムは育ての母であるアメリカ大統領の依頼を受けて、アメリカを救う旅に出ます。この旅の様子がそのまま作品になっているのです。分断された世界を往くサムの旅は、カラに閉じ籠っている時に読むととてもグッとくるものがあると、紹介者は話していました。

 また、“BB”という赤ちゃんの存在がとてもいいという話もありました。BBはまだ人間になっていない赤ちゃん、つまり生と死の間にいる存在であり、そのため、死者であるBTを感知することができます。孤独な旅を続け、身を寄せる相手もいないサムにとって、BBは唯一つながりを感じられる相手です。そしてサムは、BBを人間としてこの世に生まれさせたいと願うようになります。サムは使命以外に、自身のこうした願いを抱き、救いたい存在を抱えながら、危険な世界を突き進んでいくのです。

 ゲームの監督である小島秀夫さんが、『メタルギア』シリーズなどを世に送り出した有名人であることから、話し合いでは小島さんの他の作品のことにまで話が及びました。その中で、実際にゲームをプレイした人は、プレイ時間の分だけ主人公と共にその世界を生きているから、それだけ感情移入するんだという話がありました。この感覚は読書だけでは味わえないものなので、「本も読んで欲しいですけど、できることなら原作のゲームもやって欲しいです!」というところに、話は行き着きます。僕はゲームというものをやったことがないので、こういう感覚に身を浸したことはありません。ですが、それはもう身体に深く刻み込まれる経験なのだろうということは推し量れましたし、何より、この本の紹介にかける紹介者の思いのほどが見えたように思いました。


     ◇


 以上、第2回彩なす家オンライン推し本披露会のBグループで紹介された本について書いてきました。今回はコミック1冊、小説3冊というラインナップでしたが、歴史もの、お仕事小説、通俗小説、ゲームノベライズと、その中身は幅広く、話し合いの内容も多岐に渡ったという印象がありました。そして、どの本が紹介された後も、話し合いがしっかり盛り上がったことに驚きました。改めて、読書会に集まる人の持っている知識・世界の幅広さや、色んな人が集まって話をすることの面白さを感じる会になりました。

 今回の読書会レポートは以上になります。それでは、また次回をお楽しみに!

(8月13日)